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蛇の補題の証明 | NotaBene

蛇の補題の証明

August 29, 2021

補題1

次の完全列の可換図式

diagram4

が誘導する列KerbibcKercicdKerd\Ker b \xrightarrow{i_{bc}} \Ker c \xrightarrow{i_{cd}} \Ker dは完全である.

証明

図式を以下のような完全列の図式に分解する.

diagram5

このときそれぞれの図式に対して以下を示せばよい.

  1. 0KereKercKerd0 \rightarrow \Ker e \rightarrow \Ker c \rightarrow \Ker dは完全である.
  2. KerbKere\Ker b \rightarrow \Ker eは全射である.

以下のように実際の分解を行なえばよい.

E:=ImIBC,E:=ImIBCE := \Ima {I_{BC}}, E' := \Ima {I'_{BC}}と定義する. これは分解された図式の射eeを誘導する.

diagram8

実際CoimIBC\Coim I_{BC}の普遍性により, ある射CoimIBCCoimIBC\Coim I_{BC} \rightarrow \Coim I'_{BC}が誘導され, それを像に移したものがeeとなる. 証明はImIBC\Ima I'_{BC}の単射性による.

このようにして構成したeeに対して, IBECoimIBC,IBECoimIBCI_{BE} \cong \Coim I_{BC}, I'_{BE} \cong \Coim I'_{BC}は全射であり, IECImIBC,IECImIBCI_{EC} \cong \Ima I_{BC}, I'_{EC} \cong \Ima I'_{BC}は単射になる.

このとき分解された図式は完全になっている. したがってeeはうまく定義されている.

以下のような可換図式を考える. (図式が可換であることは誘導の定義による.)

diagram9

このとき

KericdImiec(1より)Kere(iecの単射性より)Imibe(2より)CoimibeCoimiecibe(iecの単射性より)Coimibc(図式の可換性より)Imibc\begin{aligned} \Ker i_{cd} &\cong \Ima i_{ec} \quad (1\text{より}) \\ &\cong \Ker e \quad (i_{ec}\text{の単射性より}) \\ &\cong \Ima i_{be} \quad (2\text{より}) \\ &\cong \Coim i_{be} \\ &\cong \Coim {i_{ec} \circ i_{be}} \quad (i_{ec}\text{の単射性より}) \\ &\cong \Coim i_{bc} \quad (\text{図式の可換性より}) \\ &\cong \Ima i_{bc} \end{aligned}

となる. 従って完全性が示された.

1について

ieci_{ec}は単射である.

任意のf,gf, gに対して, iecf=iecgi_{ec} \circ f = i_{ec} \circ gとする. このとき

Kerciecf=KerciecgIECKeref=IECKereg\begin{aligned} \Ker c \circ i_{ec} \circ f &= \Ker c \circ i_{ec} \circ g \\ I_{EC} \circ \Ker e \circ f &= I_{EC} \circ \Ker e \circ g \end{aligned}

により, IEC,KereI_{EC}, \Ker eの単射性からf=gf = g.

このときKer(Kerdicd)Kere\Ker {(\Ker d \circ i_{cd})} \cong \Ker eとなることをチェックすればよい. なぜなら, そうだとすると

ImiecCoimiec=CokerKeriecCoker0(iecの単射性より)Kere(0の余核はcodomainになる)Ker(Kerdicd)(仮定より)Kericd(Kerdの単射性より)\begin{aligned} \Ima {i_{ec}} &\cong \Coim {i_{ec}} \\ &= \Coker {\Ker i_{ec}} \\ &\cong \Coker 0 \quad (i_{ec}\text{の単射性より}) \\ &\cong \Ker e \quad (0\text{の余核はcodomainになる}) \\ &\cong \Ker {(\Ker d \circ i_{cd})} \quad (\text{仮定より}) \\ &\cong \Ker {i_{cd}} \quad (\Ker d\text{の単射性より}) \end{aligned}

となり完全性が示されたことになる.

任意のobjectXXをとり, 以下の図式が可換になったとする.

diagram6

このとき自然にXCDX_{CD}が誘導される.

KerICDImIEC(完全性より)CoimIECE(IECの単射性より)\begin{aligned} \Ker {I_{CD}} &\cong \Ima {I_{EC}} \quad (\text{完全性より}) \\ &\cong \Coim {I_{EC}} \\ &\cong E \quad ({I_{EC}}\text{の単射性より}) \end{aligned}

に注意すると, upto isomorphismで以下の可換図式が得られる.

diagram7
IECeXCD=cIECXCD=cKercXc=0\begin{aligned} I'_{EC} \circ e \circ X_{CD} &= c \circ I_{EC} \circ X_{CD} \\ &= c \circ \Ker c \circ X_c \\ &= 0 \end{aligned}

なので, IECI'_{EC}が単射であることに注意すると eXCD=0e \circ X_{CD} = 0 となる. これとKere\Ker eの普遍性によりXXeKereX \xrightarrow{X_e} \Ker eが誘導される.

これはiecXe=Xci_{ec} \circ X_e = X_cを満たす. 実際

KerciecXe=IECKereXe=IECXCD(XeKereの普遍性により得られた射であるので)=KercXc\begin{aligned} \Ker c \circ i_{ec} \circ X_e &= I_{EC} \circ \Ker e \circ X_e \\ &= I_{EC} \circ X_{CD} \quad (X_e\text{は}\Ker e\text{の普遍性により得られた射であるので}) \\ &= \Ker c \circ X_c \end{aligned}

となり, Kerc\Ker c の単射性によりiecXe=Xci_{ec} \circ X_e = X_cとなる.

またこのような射は一意である. すなわちiecx=Xci_{ec} \circ x = X_cとなる射xxが存在したとするとXe=xX_e = xとなる. 証明はieci_{ec}の単射性による.

従ってKere\Ker eKer(Kerdicd)\Ker {(\Ker d \circ i_{cd})}としての普遍性を持つ. よってKer(Kerdicd)Kere\Ker {(\Ker d \circ i_{cd})} \cong \Ker eが示された.

2について

2.1

図式から誘導される射CokerbjbeCokere\Coker b \xrightarrow{j_{be}} \Coker eは同型となる. すなわち図式0CokerbjbeCokere00 \rightarrow \Coker b \xrightarrow{j_{be}} \Coker e \rightarrow 0は完全である. なぜなら1の双対な主張により, 0CokeraCokerbjbeCokere00 \cong \Coker a \rightarrow \Coker b \xrightarrow{j_{be}} \Coker e \rightarrow 0は完全となるからである. 1の双対な主張は1とほとんど平行に証明される.

2.2

以下の完全列の図式を考える.

diagram10

KerIBEImIAB\Ker I'_{BE} \cong \Ima I'_{AB}に注意すると以下のような完全列の図式が考えられる.

diagram11

これに対して1を適用することにより, 0Ker0KerIBExImbibeIme0 \rightarrow \Ker 0 \cong \Ker I'_{BE} \xrightarrow{x} \Ima b \xrightarrow{i'_{be}} \Ima eが完全であることが判る. xxの単射性より

ImxKerIBEImIAB\begin{aligned} \Ima x &\cong \Ker I'_{BE} \\ &\cong \Ima I'_{AB} \end{aligned}

となるが, 標準的な分解ImbIABˉ=IAB\Ima b \circ \bar{I'_{AB}} = I'_{AB}を考えることで

ImxImIAB=Im(ImbIABˉ)ImIABˉ\begin{aligned} \Ima x &\cong \Ima I'_{AB} \\ &= \Ima {(\Ima b \circ \bar{I'_{AB}})} \\ &\cong \Ima {\bar{I'_{AB}}} \end{aligned}

となる. これはAIABˉImbibeImeA \xrightarrow{\bar{I'_{AB}}} \Ima b \xrightarrow{i'_{be}} \Ima eの完全性を示している.

2.3

以下のような標準的な分解を通じて

diagram1

新しい完全列の図式を得る.

diagram12
図式が可換であること
bIAB=IABaImbbˉIAB=ImbIABˉa\begin{aligned} b \circ I_{AB} &= I'_{AB} \circ a \\ \Ima b \circ \bar{b} \circ I_{AB} &= \Ima b \circ \bar{I'_{AB}} \circ a \end{aligned}

よってImb\Ima bの単射性より, bˉIAB=IABˉa\bar{b} \circ I_{AB} = \bar{I'_{AB}} \circ a.

eIBE=IBEbImeeˉIBE=IBEˉImbbˉ=Imeibebˉ(ibeの定義より)\begin{aligned} e \circ I_{BE} &= I'_{BE} \circ b \\ \Ima e \circ \bar{e} \circ I_{BE} &= \bar{I'_{BE}} \circ \Ima b \circ \bar{b} \\ &= \Ima e \circ i'_{be} \circ \bar{b} \quad (i'_{be}\text{の定義より}) \end{aligned}

よってIme\Ima eの単射性より, eˉIBE=ibebˉ\bar{e} \circ I_{BE} = i'_{be} \circ \bar{b}.

図式が完全列であること

aaはもともと全射, bˉ,eˉ\bar{b}, \bar{e}は分解の仕方により全射となる. 可換性によりibei'_{be}も全射となる.

このときeˉ=Coker(Kereibe)\bar{e} = \Coker {(\Ker e \circ i_{be})}となることをチェックすればよい. なぜなら, そうだとすると

Kere=Ker(Imeeˉ)Kereˉ=Ker(Coker(Kereibe))=Im(Kereibe)Imibe\begin{aligned} \Ker e &= \Ker {(\Ima e \circ \bar{e})} \\ &\cong \Ker {\bar{e}} \\ &= \Ker {(\Coker {(\Ker e \circ i_{be})})} \\ &= \Ima {(\Ker e \circ i_{be})} \\ &\cong \Ima {i_{be}} \end{aligned}

となり全射性が示されたことになる.

任意のobjectXXをとり, 以下の図式が可換になったとする.

diagram13

このときCoimb\Coim bの普遍性により, 射XbX_bが存在する. 同様にCoker(IABˉa)\Coker {(\bar{I'_{AB}} \circ a)}の普遍性により射XABaX_{ABa}が存在する.

diagram14

Im(IABˉa)Keribe\Ima {(\bar{I'_{AB}} \circ a)} \cong \Ker i'_{be}により, Coker(IABˉa)Keribe=0\Coker {(\bar{I'_{AB}} \circ a)} \circ \Ker i'_{be} = 0となることに注意すると射yyが誘導される.

diagram15

このときupto isomorphismでXABayeˉ=XEX_{ABa} \circ y \circ \bar{e} = X_Eとなる. 実際

XABayeˉIBE=XABayibcbˉ=Xbbˉ=XEIBE\begin{aligned} X_{ABa} \circ y \circ \bar{e} \circ I_{BE} &= X_{ABa} \circ y \circ i'_{bc} \circ \bar{b} \\ &= X_b \circ \bar{b} \\ &= X_E \circ I_{BE} \end{aligned}

IBEI_{BE}の全射性により, 主張が従う.

またこのような射は一意である. すなわちxeˉ=XEx \circ \bar{e} = X_Eとなる射xxが存在したとするとXABay=xX_{ABa} \circ y = xとなる. 証明はeˉ\bar{e}の全射性による.

従ってIme\Ima eCoker(Kereibe)\Coker {(\Ker e \circ i_{be})}としての普遍性を持つ. よってeˉ=Coker(Kereibe)\bar{e} = \Coker {(\Ker e \circ i_{be})}が示された.

補題2

次の完全列の可換図式

diagram16

が誘導する列CokeraCokerbCokerc\Coker a \rightarrow \Coker b \rightarrow \Coker cは完全である.

証明

双対な主張と平行に進む.

主張

次の完全列の可換図式

diagram17

に対して列 KerbKercKerdCokerbCokercCokerd\Ker b \rightarrow \Ker c \rightarrow \Ker d \xrightarrow{\partial} \Coker b \rightarrow \Coker c \rightarrow \Coker d は完全である.

ただし射\partialは以下の図式を可換にするようにただひとつ定まる.

diagram18

証明

KerIDE\Ker {I'_{DE}}の普遍性により誘導される射をf:CKerIDEf : C' \rightarrow \Ker {I'_{DE}}とする.

このとき補題1を2回用いることにより, 完全列の可換図式

diagram20

を得る.

KerICDc=Ker(KerIDEfc)Kerfc\begin{aligned} \Ker {I'_{CD} \circ c} &= \Ker {(\Ker {I'_{DE}} \circ f \circ c)} \\ &\cong \Ker {f \circ c} \end{aligned}

に注意する.

同様にCokerIAB\Coker {I'_{AB}}の普遍性により誘導される射をg:CokerIABCg : \Coker{I_{AB}} \rightarrow Cとする.

このとき補題2を2回用いることにより, 完全列の可換図式

diagram21

を得る. Coker(cg)Coker(cIBC)\Coker (c \circ g) \cong \Coker {(c \circ I_{BC})}に注意する.

ここで以下の図式に注意する.

diagram19
KerdImy(全射性より)Coimy=CokerKeryCokerImx=CoimCokerxImCokerxCokerx\begin{aligned} \Ker d &\cong \Ima y \quad (\text{全射性より}) \\ &\cong \Coim y = \Coker \Ker y \\ &\cong \Coker \Ima x \\ &= \Coim \Coker x \\ &\cong \Ima \Coker x \\ &\cong \Coker x \end{aligned}

となり, さらにCokerx\Coker xの普遍性により射v:CokerxCoker(cIBC)v: \Coker x \rightarrow \Coker (c \circ I_{BC})が存在して, 上の図式と可換になる. 同様に

Cokerb=ImzKerw\begin{aligned} \Coker b &= \Ima z \\ &\cong \Ker w \end{aligned}

となる. Kerw\Ker wの普遍性から射:CokerxKerw\partial : \Coker x \rightarrow \Ker wがあり, 射vvと図式と可換になる.

yyの全射性, zzの単射性により\partialは唯ひとつ存在することがわかる.

このとき列が完全であればよい. 補題1と2により以下の列が完全であることを示せばよい.

KercicdKerdCokerbKerdCokerbjbcCokerc\Ker c \xrightarrow{i_{cd}} \Ker d \xrightarrow{\partial} \Coker b \\ \Ker d \xrightarrow{\partial} \Coker b \xrightarrow{j_{bc}} \Coker c

すなわちKerImicd\Ker \partial \cong \Ima i_{cd}, KerjbcIm\Ker j_{bc} \cong \Ima \partialを示せばよい.

KerKer(z)=Kerv\Ker \partial \cong \Ker (z \circ \partial) = \Ker vおよび, 下の図式によると

diagram22

補題1より, KerImα\Ker \partial \cong \Ima \alphaであることがわかる.

加えて以下の図式により,

diagram23

ImβKerγ\Ima \beta \cong \Ker \gammaであることがわかる.

ここで, Ker(cKer(ICDc))\Ker (c \circ \Ker (I'_{CD} \circ c))の普遍性により誘導される射δ\deltaが存在してβ=Ker(cKer(ICDc))δ\beta = \Ker (c \circ \Ker (I'_{CD} \circ c)) \circ \deltaを満たす.

ImβKerγKer(KerICDγ)Ker(cKer(ICDc))\begin{aligned} \Ima \beta &\cong \Ker \gamma \\ &\cong \Ker (\Ker I'_{CD} \circ \gamma) \\ &\cong \Ker (c \circ \Ker (I'_{CD} \circ c)) \end{aligned}

であることに注意すると, ImδIm(Ker(cKer(ICDc))δ)=ImβKer(cKer(ICDc))\Ima \delta \cong \Ima (\Ker (c \circ \Ker (I'_{CD} \circ c)) \circ \delta) = \Ima \beta \cong \Ker (c \circ \Ker (I'_{CD} \circ c))となり, δ\deltaが全射であることがわかる. 以上の注意により,

Imicd=Im(yβ)=Im(yKer(cKer(ICDc))δ)Im(yKer(cKer(ICDc)))=Im(Kervα)Imα\begin{aligned} \Ima i_{cd} &= \Ima (y \circ \beta) \\ &= \Ima (y \circ \Ker (c \circ \Ker (I'_{CD} \circ c)) \circ \delta) \\ &\cong \Ima (y \circ \Ker (c \circ \Ker (I'_{CD} \circ c))) \\ &= \Ima (\Ker v \circ \alpha) \\ &\cong \Ima \alpha \end{aligned}

となり, KerImicd\Ker \partial \cong \Ima i_{cd}が示された.

KerjbcIm\Ker j_{bc} \cong \Ima \partialも双対な証明が成立するはずである.


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